「内定取り消し」が自分とは無縁の、新聞などに掲載されるなど、よほどの大きな問題を起こした学生にしか起こらないものだと思っていませんか?
大学生の就職支援を10年にわたって行ってきた私の経験では、学生には何の問題もなかったのに内定取り消しになったケース、そして学生が悪気なく行ったあることがきっかけで内定取り消しに至ってしまったケースなど、実際に内定取り消しになることは多いにあり得る話です。
この記事では、内定取り消しは人ごとではないこと、そして実際に内定取り消しをされたらどうしたらよいかを、就職支援歴10年の講師が紹介します。
意外と多い!内定取り消しの実態とウラ事情
1.厚生労働省による内定取り消しの件数
平成20年の厚生労働省の調査によると、ハローワークが指導中のものを含めて、大学生が内定取り消しされた事実が確認できたのは、国内で302人、事業所数でいえば75件です。
平成27年には、内定取り消しとなった学生数は82人、事業所数では32件という報告がされています。
このような数値を見る限り、全国的に内定取り消しは減少傾向にあるように見えますし、近年ではまれに生じる現象のようにも見えます。
でも、本当にそうなのでしょうか?
2.ウラで行われている内定取り消しもある
一見すると、平成20年から27年にかけて減少しているように見える内定取り消しの件数ですが、実はこの数字、鵜吞みにすると危険な数字なのです。
厚生労働省が公表する内定取り消しの件数は、あくまでもハローワークに合法に通知されたケースのみを集計した数値に過ぎないからです。
一部の企業では、内定取り消しをしているにもかかわらず、ハローワークへの通知を行わず、表向きは「内定取り消しなんて、していません」という顔をしているところもあります。つまり、オモテには出ない内定取り消しも存在するということです。
以上のように考えてみると、内定取り消しはウラで行われている分も含めれば、「自分は無縁」と言い切れるほどの他人ごとではないことがわかります。
では、実際にどのような場合に内定取り消しが行われているのでしょうか。
後悔しないために!就活生に非があるケース
まずは就活生自身に何かしらの問題があって、会社側から内定辞退されてしまうという場合についてご紹介します。
1.履歴書詐称
就活では、得てして自分をよりよく見せたいという気持ちが働きがちですが、それが行き過ぎると内定取り消しに至ってしまう場合もあります。具体的には、履歴書の学歴や、資格について、事実ではないことを書いてしまう場合です。
- 大学名、学部名を偽った場合(卒業証明書ですぐにバレます)
- TOEIC800点以上と履歴書に書いたのに、実際は500点台
- 取得していない資格を資格欄に記入した
TOEICの場合、入社前や入社後にスコアのコピーを提出するように義務付けている会社もあります。
これは、募集条件が「TOEIC800点以上」などと指定されている場合に多く見られますが、このような条件を出しているのは、実際の業務で英語力が求められるからです。800点以上の英語力があることを考慮して内定を出したのに、実は500点だったことが分かれば、内定取り消しになることはやむを得ないでしょう。
2.素行問題
内定をもらえたからと安心した就活生に多いのがこのようなケースです。
- 安心からハメを外し過ぎて、車で人身事故を起こした
- twitterにバイト先で暴れている画像や動画をアップして、アカウントを追っていた内定先に知られた
このような気の緩みから起こる素行の悪さが原因で内定取り消しになるケースもあります。
3.卒業できない
内定はもらえたのにもかかわらず、卒業に必要な単位のギリギリまでしか取得できていなかった場合に起こりやすいのがこのようなケースです。
「卒論の8単位がとれればギリギリ卒業できるはずだったのに…」「あと1科目試験が受かっていればなんとか卒業できたのに…」などのように、内定をとった時点で卒業が確定していない学生に多いのです。
4.必須資格が卒業までに取得できなかった
就職時に企業や施設から「取得見込みでもいいから、卒業までに取得しておいてね」という指示があったにも関わらず、その資格試験に落ちて、資格が取れなかった場合にも、内定取り消しは起こり得ます。
具体的には
- TOEIC900点以上
- 社会福祉士
- 弁護士
- 日商簿記2級以上
以上のような資格取得が条件となっていたのに、それが卒業までに取得できなければ、内定取り消しとなる場合もあります。
避けられない?企業に非があるケース
就活生の自業自得で内定取り消しになる場合もあれば、就活生には何の問題もないにも関わらず、企業側の事情によって内定取り消しが起こる場合もあります。
1.業績悪化・倒産
本来であれば、倒産するほどの業績状態で新卒を採用することはあり得ませんが、まれに業績悪化が著しかったり、倒産の危機にあるのにそれを隠しながら営業を続けるために新卒を採用してしまう企業もあります。
実際記憶の新しいところでは大手格安旅行会社の「てるみくらぶ」が、倒産の危機にあったにも関わらず、50名の新卒を採用し、その後倒産しました。
2.企業側の内定辞退数の見込みが外れた
大きな企業になればなるほど、採用人数も多くなりますが、その分複数の内定が出た就活生から内定辞退されることもあります。そのような場合を見越して、企業はあらかじめ数人の内定辞退が出るという計算で採用人数を上乗せしている場合があるのです。
しかし、思ったよりも内定辞退が少なかった、もしくは内定辞退がゼロだった場合、「新卒でこんなに雇ったら人件費がパンクする!」という理由から、内定順位の低かった学生から順に内定取り消しをする企業があります。
このように、企業側の都合によって内定取り消しが起こることもありますが、就活生側に非があるケースに比べればまれです。
もしも内定取り消しになったら?損しないための対処法
1.内定取り消しが訴訟によって法的に認められてしまった判例
内定取り消しについて、とても有名な判例として「大日本印刷事件」があります。昭和54年の古い判例ですが、雇い入れ前の労働契約と、雇い入れ後の労働契約は質が異なるために、内定取り消しを訴えた学生が敗訴した判例です。
つまり、内定取り消しが一部法的に認められてしまった判例なのです。
2.訴訟に発展した時の対処法
あなたが内定取り消しをされて、他の企業に就職できなくなるなどの損害を被った場合、民事裁判をもって企業を訴えることもできます。
しかし、そのためには、2種類の証拠を集めておく必要があります。
(1)内定をもらったという証拠
「内定通知書」が企業から送られてきたら、紛失しないように保管しておきましょう。あなたが内定を確実にもらっていたという証拠になります。
(2)内定取り消しがあったという証拠
内定取り消し後は、「内定取り消し通知書」が自宅へ郵送されます。
ところが、この内定取り消し通知書には「どうして内定を取り消したのか」を示す取り消し理由が記載されていないものもあります。
このような内定取り消し通知書だと、あなたに非があったと後から事実を捻じ曲げられる可能性もありますから、必ず理由も記載するように希望を伝えましょう。
3.自分に原因があって取り消しにならないよう、内定後の生活を見直す
企業側の都合よりもはるかに多い就活生に非があるケース。
このようなケースに該当しないよう、内定後は「勝って兜の尾を締めよ」のことわざ通り、「内定から初出勤まではさらに自分に磨きをかける」つもりで、気を抜かないことが大切です。
内定後は素行を見直し、企業に求められている以上の人物となるよう、さらに精進すれば間違いないでしょう。
まとめ
内定取り消しは、オモテに出ている件数よりも多く行われています。
その中でも多いのは、就活生が内定ほしさに自分を必要以上によく見せようと資格や学歴を偽ったり、気の緩みから社会的に望ましくない行動をとることによるものです。
あなたに非がなくても取り消しになることはあります。その場合は、受験前に企業の業績をチェックしたり、株価の動きを確認することをおすすめします。
業績悪化や倒産による内定取り消しはまれですが、不憫に思った企業が無試験で採用したという実例もあります。怖いのはやはり自分に非があるケースですから、内定後は半分社会人になったつもりで、普段の行動を見直しましょう。