アルバイトは、大学生の9割以上が経験すると言われている。その中にはブラックバイトと呼ばれる、過酷なアルバイトに従事する学生も少なからず存在する。
ブラックバイトを聞いたことのない学生は少ないと思うが、今回は大学生が陥りがちなブラックバイトについての理解を深め、どのような対策が必要か考えていく。
- ブラックバイトって何?
- ブラックバイトにはどんな特徴があるの?
- ブラックバイトの可能性が高い職種は何?
この記事の目次
ブラックバイトとは?
狭義の定義
『学生であることを尊重しないアルバイトのこと。フリーターの増加や非正規雇用労働の基幹化が進む中で登場した。低賃金であるにもかかわらず、正規雇用労働者並みの義務やノルマを課されたり、学生生活に支障をきたすほどの重労働を強いられることが多い。』ブラックバイトユニオン
広義の定義
『学生の無知や立場の弱さにつけ込むような形での違法行為が当たり前となっているアルバイトのこと。違法行為として、例えば、残業代不払い、休憩時間の不付与、不合理な罰金の請求、パワハラ・セクハラの放置などがあげられる。』ブラックバイトユニオン
難しいのが、どこまでがブラックバイトでなくてどこからがブラックバイトであるかだ。判断の基準となるのは、違法性があるかと、どれだけの実害が出ているかだと思われる。
ブラックバイトの背景
シンプルにまとめるなら、「非正規雇用に頼る企業が増え、アルバイトに過酷な労働を強いるようになったから」だが、せっかくなので色々な視点から考えてみる。
- 非正規雇用による人件費削減
- フリーターの増加
- 不景気と授業料の増加
- 大学全入時代の到来
- グローバル化・テクノロジーの進歩
- インターネットの普及
- ソーシャルメディアの普及
不況により非正規雇用が増加し、労働者派遣法改正といった労働市場の緩和策が企業の非正規雇用を後押しした。そこからアルバイト・フリーターの効率的な活用がなされていき、高度にマニュアル化された仕事を安い賃金で雇った人材に任せるようになった。
ここまで広まったのはソーシャルメディアの普及やメディアによる拡散の貢献も大きい。
ブラックバイトの特徴
あなたのバイト先が以下のような特徴に当てはまったら、ブラックバイトである可能性が高い。
- 強制的な連日労働
- 急な呼び出しが続く
- 残業代が出ない(サービス残業)
- 賃金が最低賃金よりも安い
- 過酷なノルマを強制される
- 罰金・買取・弁償させられる
- 怪我をしても労災がおりない
- 給与明細がない
- 休憩がない
- パワハラがある
- 辞めさせてもらえない
- 研修期間がずっと続く
最低限の労働環境が整備されていれば、これらの特徴が1つも当てはまることはない。「少しくらい当たり前でしょ」と思ってしまっていたら、感覚が麻痺しているのかもしれない。
ブラックバイトの何がいけないのか?
学生がブラックバイトにハマってしまうと様々な弊害が生じる。
- 精神的ストレスが溜まる
- 生活習慣が乱れる
- 学業に専念できない
- 十分な単位が取れず留年
アルバイトのせいで留年してしまったら、結局働いて稼いだ以上の学費がかかる。こうなれば時間とお金の無駄となり、元も子もないのは明白だ。たかがアルバイトに人生を狂わされてはいけない。
社会としてはブラックバイトによって将来を担う人材の質が低下することが大きな問題だ。
大学生がブラックバイトをやめられない理由
ブラックバイトなんて辞めてしまえば良いと言うのは簡単だが、それぞれ辞められない事情もあったりする。
- アルバイトをしなければ生活が成り立たない
- 就活での自己PRにマイナスだと感じる
- 再就職先を探す労力が惜しい
- フリーターで働く人に合わせてしまう
- バイト先の人間関係を壊したくない
- 自分に責任があると感じてしまう
- 責任ある仕事を任されている
- 法知識に乏しい
- 脅されたり、お願されると断れない
- 妨害行為を受けている
ブラックバイトをしていると生活が狂い、精神的に追い詰められ、現状を正確に認識できなくなってしまっているかもしれない。
もし学業に支障をきたしてしまっているようなら、アルバイトよりも学業の方が優先順位が高いことを再認識して、学業の阻害となる過度な労働はやめるべきだ。
ブラックバイトの事例
では、実際にブラックバイトにはどのような事例があるのだろうか。メディアで話題となったものを一部紹介する。
事例1:大手飲食チェーン
『大手飲食チェーン店でアルバイトをした大学3年の男子学生(21)が4カ月間無休で働かされた上、店長に包丁で刺されたなどとして、運営会社側に未払いの残業代や慰謝料など計約800万円の支払いを求めた訴訟の第1回口頭弁論が14日、千葉地裁である。ブラックバイトを巡る訴訟は全国初とみられ、大学生は「怖くて辞められなかった。学生を会社の都合だけで働かせるのは許されない」と訴える。』毎日新聞|大学生「怖くて辞められず」
事例2:ケーキ屋
『「私のバイト先は真っ黒です!」と憤るのは、広島県在住の女子高生あかりちゃん(18歳・仮名)。
「ケーキ屋でバイトをしてるんですが、給料の出ない残業が毎日1~2時間で、試験期間も休ませてくれません。あげくの果てに、300円~500円ほどする余ったケーキを、買って帰るようにやたらと勧められるんです。断ると、急に冷たい態度をされたりして……。時給が730円で交通費も出ないのに、そんな値段のケーキ買えませんよ!」と、『自社の余った商品を買わされる』という、ブラック企業にありがちな仕打ちが、バイトにおこなわれている事態が判明。ただ、社員ならまだしも、学生のバイトであれば、すぐ辞めちゃえばいいのでは、とも思うが……!?
「新しいバイト先に変えたらもっとブラックになるんじゃないか、と思うと不安で変えられないんです。実は、前にバイトしていたパン屋も、シフトは勝手に決められるし、タイムカードがなくて、店長のさじ加減で勤務時間が決まるようなところで、3日で辞めたら給料がもらえませんでした。高校の友達にも似たような話をたくさん聞くので……」』日刊SPA|「ブラックバイト」で苦しむ島の女子高生
事例3:おしゃれな飲食店
「西麻布や恵比寿といった、雰囲気よさげな場所に店舗を構えている飲食グループだったので、楽しそうだなと思って応募したんです。ところが、とんでもなかった。
新人バイトは白いTシャツにジーンズと吉田栄作みたいなカッコをさせられ、仕事の流れもロクに教わっていない初日から怒鳴られる。
グラスを割ってしまった新人はキッチンの裏に連れて行かれ、お腹を蹴られていました。暴力をふるう先輩バイトはちょっとこじゃれたシャツを着ていて、とにかく偉そうで偉そうで……。5~6人、一緒にバイトとして採用されたのですが、初日で1人辞め、一週間で2人辞め……僕も1か月持ちませんでした」
それまで、テレアポや引っ越しなど様々なバイトの経験があった大沢さんだったが、堪えられなかった。バイト日の前日、意を決して「辞めさせてください」と電話を入れると、店長からこんな言葉をかけられたそうだ。
「電話してくるだけマシだけど、根性ないね。お前みたいなヤツ、多いんだわ。そんなんじゃこの先、どこでもやっていけないよ」』日刊SPA|洗脳しやすい人間を抽出する【ブラック企業経営者の人心掌握術】
事例4:レストラン
『「私たちが相談を受けたケースですが、あるレストランでバイトをしていた20代の女性は、労働時間の取り決めがなく、月80~90時間は働いていました。
時給に換算すると300円です。シフトが入っていない日でも呼び出されることが何度もありました。例えば、夜の11時に店長から電話がかかってきて、『今、何やっているんだ?』と聞かれたので、『もう寝ようかと思っていたところです』と答えると、『今すぐ店に来い!』と呼ばれる。
彼女は専門学校に通っていたのですが、試験前に勉強していても『そんなヒマがあるなら店に来い!』と。
職場に行くのに難色を示すと『俺がこんなに大変なのにお前はわからないのか!』とか、『俺が倒れたらお前は責任取れるのか!?』と怒鳴られるなど、もう言っていることがメチャクチャです。
彼女のバイト仲間の男性も過労死寸前まで働かされ、またしょっちゅう殴られていたとか」』「ブラックバイト」で学生生活が破綻。それでも抵抗しない学生たち
万が一、異常な労働を強いられ、辞めさせてもらえないアルバイトに陥ってしまったら、自分で解決するのではなく弁護士などに相談するのが一番だ。法知識のない事業主であれば、弁護士に論破されたらどうしようもないはずだし、待遇が改善されれば今後そこで働くアルバイトの生活を救うことができる。
ブラックバイトの実態調査
厚生労働省によって大学生のアルバイトの現状についての調査結果が公表されており、このデータから大学生がアルバイトをしている中で問題となっていることについて見ていく。
あなたはアルバイトによって、学業に支障が出た経験がありますか。
- ある:82.2%
- ない:17.8%
- 労働条件等で何らかのトラブルがあった:60.5%
参考:厚生労働省『大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査結果について』
あなたはアルバイトをしていて、労働条件などに関して次のようなことはありましたか。
- 採用時に合意した以上のシフトを入れられた:14.8%
- 一方的にシフト変更を命じられた:14.6%
- 準備や片付けの時間に賃金が支払われなかった:13.6%
- 採用時に合意した以外の仕事をさせられた:13.4%
- 1日に労働時間が6時間を超えても休憩時間がなかった:8.8%
- 給与明細がもらえなかった:8.3%
- 退職を申し出ても勤務先の都合を理由に退職させてもらえなかった:3.2%
- 暴力やいやがらせを受けた:2.8%
- 商品やサービスの買取を強要された:1.8%
- 賃金が支払われなかった(残業分):5.3%
- 賃金が支払われなかった(全額):1.3%
- 仕事中の怪我の治療費を自己負担させられた:1.3%
- 賃金から一方的に罰金を徴収された:1.2%
- 会社の都合で一方的に解雇された:1.2%
参考:厚生労働省『大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査結果について』
このように多くの大学生がアルバイトでトラブルを経験している。こうした問題に対して適切な対処をしていくには、労働に対する最低限の知識を持っておく必要がある。
ブラックバイトの見分け方
学生生活を狂わせるブラックバイトにハマらないためにも、ブラックバイトかどうかを見極めることが大切だ。ここではブラックバイトを見分けるためにできることを5つ紹介する。
- 事前に情報を集める
- 求人の裏を推測する
- 面接で職場の雰囲気などを確認する
- 契約内容の確認・保管
- 周囲とアルバイトの情報交換
基本となるのは事前にアルバイト先の情報を集めることだ。ブラックな職場が多い企業はネットで口コミが書かれているので参考にしよう。
また、職場の雰囲気や働いている同僚を見て、違和感を感じないかも大事にしよう。
対処法
もしブラックバイトに遭遇してしまったら、我慢して続けるのではなく、以下のような対処をした方が良い。
- 辞める
- 弁護士などに相談する
- 労働環境の改善を訴える
- 嘘をついても断る
もしブラックバイトに遭遇してしまったら、なるべく早めに辞めるのが得策だ。だが、そうも言ってられない場合もあるので、その時は弁護士などに相談して第三者の立場から辞められるよう交渉を仕掛けていくべきだ。
ブラックバイトの多い職種
働きやすい職場も数多くあるが、一般的にブラックバイトが多いと言われる職種を挙げておく。
- 飲食・接客
- 学習塾
- コンビニ
- 引越し
- パチンコ店
- テレアポ
- 派遣バイト
どれも大学生に人気のアルバイトだが、職場によっては希望したシフトを無視して労働させられたり、過度なノルマを課せられることもある。多くはアルバイトを管理するマネージャーの運用能力のなさと企業の管理体制に問題がある。
最後に
ブラックバイトを語る上で忘れてはならないは、単に「大変なバイト=ブラックバイト」ではないということだ。
学生であることを尊重せず学生の弱みにつけ込んで強制労働をさせたり、違法行為があるようなら問題だが、「嫌いな人と一緒に働かなければならない」「仕事がキツい」ということが問題ではない。これはどこにでもあることだ。
コンビニや飲食店などではすべてのアルバイトの希望通りにシフトを調整することができず、希望シフト外の労働をお願いされることもある。
となると面倒なのが、「どこからがブラックなのか?」という点になる。
それを判断するためのポイントは、主に以下の3つが挙げられる。
- 違法行為かどうか
- 両者の合意があるかどうか
- 学業に支障が出ているか
ただし、こうした情報を正確に判断することはアルバイト経験の浅い学生には難しいかもしれない。
となった場合にすべきことは、ただ一つ。
- 外部への相談
これに尽きる。友人ではなく、できれば労働問題に詳しい弁護士であることが望ましい。
ブラックバイトについては、「ブラックバイトユニオン」といった組織ができているので、そうした所に相談するのも良いだろう。