皆さんは「ブラック研究室」という言葉をご存知ですか?昨今、ブラックバイトやブラック企業という言葉が世間を騒がせていますが、大学の研究室にもブラック研究室というものが存在します。
そこで本記事では、ブラック研究室を避け、学生の皆さんがかけがえのない経験ができる研究室を選べるように、研究室選びのポイントをまとめました。
研究室には、「ブラック研究室」と「ホワイト研究室」がある
「ブラック研究室」と聞くと、「まさか営利団体ではあるまいし、どうして教育機関でそんなことが…」と思われるかもしれません。高校までは、学校の先生の仕事は教えることでした。生徒のことを本当に考えてくれる先生も多かったと思います。
しかし、大学からは違います。
日本の大学は教育機関ではなく研究機関だとよく言われますが、学生の教育より自分の研究に関心がある教員が大多数を占めています。情けない話ですが、その中には自分の業績に固執してしまう教員も決して少なくありません。
一部の私立大学では、かなり雇用を保証してくれるところもあるようですが、多くの大学では、教員には任期があり、教授以外の大学教員にとって将来のポジションがかなり懸念材料となっています。更にいいポジションを狙っている教員も数多くいます。
このポジション獲得のために必要な業績が論文数なのです。そういうわけで、大学教員の中には、論文数あるいはネイチャーやサイエンスといった有名雑誌に論文を投稿することしか目に入らなくなる人が少なくありません。
そういった研究室では、学生を自分の所有物のように扱い、日曜祝日も関係なく働かせ、自分の思い通りにならなければ何時間も怒鳴りつけるブラックな事態がかなり起こっています。実際、「ブラック研究室」に所属してしまったがために、退学する学生も後を絶ちません。
しかし、学生の皆さんはもちろん自分の将来や成長のために大学に通っているはずです。教員の小間使いになるためではありませんし、せっかく入試を突破して授業料を払っているのに研究室のために退学するようなことになるのはもったいなさすぎます。
前述では少し脅しましたが、学生のことを真剣に考えてくれる先生や本当にいい研究をしようというビジョンを持った教員もたくさんいます。そのような「ホワイト研究室」で勉強できると、そこでの経験や恩師そしてよき仲間たちは一生の財産になります。
研究室選びのポイント
ポイント1.教授は自分と相性がよさそうか
研究室選びの1つ目のポイントは教授(あるいはその研究室のトップのポジションにある人)です。組織はほぼそのトップで決まります。日本の大学は縦社会ですので、教授の意向が絶対である研究室もあります。研究室選びはまず教授選びから始めてください。
教授を判断する上で確認するポイントは教授の人間性です。最初に書きましたが、大学には学生の人権を無視し、自分の所有物のように扱う教員もいます。必ず人間性に優れた教員を選んでください。前向きで素晴らしい人柄の教員がトップである研究室は他のスタッフや学生も前向きになり、充実した研究生活を送ることができます。
ところが、トップが業績ばかり重視する人間であったり、管理主義であったりすると、研究室の雰囲気は暗く殺伐としたものになり、自分のためになりません。私の経験上、優れた人柄の先生は自分の学生を褒めます。このような教員の下にいると、自分の長所を伸ばしてもらえ、大きく成長することができます。
しかし、いくら評判のいい教授でも、その先生が自分と違いすぎるタイプの人間だとやめておいた方が無難です。人間はなかなか自分と違うタイプの人間を評価できないものです。大学の先生は視野の狭い人が多いので、在学期間中ダメ出しばかりされかねません。なるべく視野が広く器の大きな先生を選ぶといいでしょう。
教授選びの注意点
准教授がトップの場合、次の年から教授が来る可能性があるということです。前述しましたが、トップによってその研究室の雰囲気はガラリと変わります。准教授がトップの研究室を希望されている方は少し注意しておいたほうがいいかもしれません。
ポイント2. 研究室の雰囲気
ポイントの2つ目は、研究室の雰囲気です。一般的に理系の人は研究室で過ごす時間が長く、研究室の影響を非常に受けやすくなります。環境は人を作ります。賢い仲間に囲まれると卒業する頃には自分もそうなっています。
逆に自分と全く合わない研究室に所属してしまうと、毎日が地獄です。自分の性格に合った雰囲気の研究室、あるいは自分もこうなりたいと憧れを抱く雰囲気の研究室を選びましょう。
自分の進路や将来の夢が実現できそうか
学部卒で就職される場合、先輩や同期に就職する人がいるか確認してください。理系の教員は、大学院に進学しないことで嫌な顔をする人もいますし、大学院進学が当たり前の雰囲気の研究室で就活するのも大変です。
先輩で学部卒で就職した人がいるか、学部卒の就活に寛容かを確認しておきましょう。できれば先輩が使った就活の資料などをもらえるところがいいと思います。
大学院に進学したい方は進学率と院試勉強の期間を考慮してください。院試は大学入試と違い、書店で模範解答が売られていることはありませんので、情報交換や教え合いができる仲間がいた方が圧倒的に有利です。
進学したい方には進学率の高い研究室をオススメします。ただ、学生同士お互いをライバル視する研究室もあります。このようなところでは足の引っ張り合いにもなりかねませんので、注意してください。
院試休みの期間はしっかりもらえるか
世の中には4年生の4月から夏まではずっと院試勉強に当てられる研究室も存在します。もし外部受験などを考えていると、院試休みが短いのは不利になります。院試休みは標準が1ヶ月程度です。それより短い研究室は本当に学生のことを考えているのか疑問です。
ただ、ほとんどが推薦等で進学できる、あるいは入試の倍率が低い場合はほとんど院試休みのないところもあります。自分の進路に合わせて確認してください。
ポイント3.研究室の業績
ポイントの3つ目は、研究室の業績です。業績の多い研究室には予算もたくさんあり、皆さんがよりよい研究や経験ができる環境にあります。研究室の業績で確認するポイントは、学会発表、論文数、研究室の予算です。
学会発表
学生の皆さんに一番直接関係があるのは、学会発表ではないでしょうか。研究室に所属し、ある程度結果が出てくると学会発表をする機会が出てきます。研究発表自体ももちろんいい経験になるのですが、学会は他大学や他研究室の人たちと交流できるいい機会にもなります。学会発表の機会の多い研究室を選んでご自身もどんどん参加してみてください。
学会発表は日本国内の研究者が集まる国内学会と世界中の研究者が参加する国際学会があります。グローバル化が唱えられている時代ですし、できれば国際学会に参加している研究室がオススメです。
学会発表の業績は、研究室のホームページの学会発表、あるいは業績のページから確認することができます。
ただし、ここで一つ注意が必要です。学会発表の項目をチェックするときは、発表者が学生であるか(学生の名前も研究室のメンバーから調べられるところが多いです)を必ず確認してください。たまに、国際学会は教員しか参加しない研究室もあります。
論文数
論文数は、博士課程に進学される方を除くと、学生の皆さんはあまり関心がないのではないでしょうか。(ただし、日本学生支援機構の奨学金免除の対象となる場合がありますので、事務室等で確認しておいた方がいいと思います。)
しかし、やはり研究は論文で評価されるものです。論文数に固執すると確かにブラック研究室が生まれる原因となるのですが、発表されている論文があまりにも少ないと、その研究室は学生の士気が低く学べる環境にないのではないかと疑いたくなります。
論文数も、研究室のホームページの業績、あるいは論文という項目から調べることができます。学生数にもよりますが、教授、准教授、助教の教員三人体制で博士研究員等を雇っていなければ年間7~8本出ていればかなり充実した研究室です。
予算
次は研究室のお財布事情です。世知辛いですがどれだけすごい研究をしてもお金がなければ学会にも行けません。研究室の研究費の多くは科研費と呼ばれる文科省と日本学術振興会から出ている研究費によって賄われています。そして獲得した科研費の額は以下のサイトから誰でも調べることができます。
https://kaken.nii.ac.jp/
このサイトに気になる研究室の教員の名前を打って検索してみてください。科研費が獲得できていれば、何年間合計いくらの予算があるかわかります。教員全員の名前を検索してください。
※ちなみに、予算の額は万円単位ではなく千円単位で記載されているのでご注意ください。
隣の研究室と比較してみるといいかもしれません。こっちの研究室のほうがお金が潤沢にある、などがわかります。ただし、一般的に生物系の研究室は多く、計算系は少ない、という傾向にありますので、似たような分野で比較した方がいいでしょう。
ここまで読まれて、あれ、研究のテーマって重要じゃないの?と思われたと思います。大丈夫です。本来大学は新しいことを研究する場所です。
先生との関係さえよければ、自分の得意とする方向のテーマにしてもらったり、共同研究をして新しいテーマを作ってもらったり、留学させてもらったりできるわけです。テーマの調整はいくらでも可能です。とにかく重要なのは教員との関係です。
ちょっと待って!その研究室ブラックじゃない!?
それでは、ここからは気になる研究室がブラックでないか確かめる方法を3つ紹介します。ここでは情報収集がメインになります。
1.研究室訪問で学生から話を聞く
研究室を決める際、研究室を一度は訪問すると思います。もちろん、この場で教員との相性を確認することも重要ですが、所属している学生からも必ず話を聞いてください。このときに
- コアタイムはあるか
- 土曜や祝日は休みか、お盆休み等の長期休みはどのくらいあるか
- アルバイトはできるか
- 海外旅行は行けるか
などを聞くといいでしょう。アルバイトや海外旅行に行けないところは、ブラックである可能性が高いからです。
「この学科で一番帰るのが遅い」というワードが出た場合も注意が必要です。また学生が全員外国人という場合も少し用心してください。ブラックすぎて日本人学生が誰も来なくなった可能性があります。
2.他研究室に訪問した際に自分の気になっている研究室を聞く
次に、他の研究室訪問時に自分の気になっている研究室のことを聞いてみる、というのも手です。〇〇研究室ってどうですか?となにげなく話を振ってみてください。その研究室のことをよく知らなくても夜遅くまで残っているかくらいはわかります。
また、この学科で一番大変な研究室はどこですか?と聞いてみてもいいでしょう。ホワイト研究室ならブラック研究室のことを面白がって話してくれます。その研究室がブラックだったら顔が暗くなるかもしれませんが。
3.事務の人や秘書さんから情報を集める
一番オススメの方法は、学科の事務職員さんや研究室の秘書さんから情報を聞き出すことです。職員さんや秘書さんは学生よりも長い期間大学で働いていますし、自分たちが直接先生たちと携わっています。そのためたくさんの情報を持っています。意外とブラック研究室ってゴミの量からもわかったりするのです。
もしブラック研究室に配属されてしまったら
最後に、もしブラック研究室に配属されてしまったらどうしたらいいかを紹介します。まずは必ず誰かに相談してください。一番いいのは大学のカウンセリングルームです。カウンセリングルームというと、悩みをを聞いてもらう場所だと思われがちなのですが、実際はハラスメント対策の中心となっていることが多いのです。
学科の事務室に相談することも可能です。事務室はブラック研究室の存在を把握しています。あまりにも学生の退学が相次ぐブラック研究室の場合、事務室に駆け込むと他の研究室に受け入れてもらえるよう交渉してくれるところもあります。
そして、その研究室では進学せず就職あるいは他の研究室及び他大学の大学院に進学する選択肢を考えてください。
最後に
本記事では、学生の皆さんが充実した研究生活を送れるよう理系学生の研究室選びのポイントをまとめました。またブラック研究室でないか確認する方法も記載しました。皆さんが自分が最大限に成長できる研究室と出会い、思いっきり羽ばたけることを切に願っています。
ただ、ブラック教員というのは昔から存在していました。そのような研究室を経験された方の中にも現在大活躍されている方もいます。万一相性の悪い研究室に入ってしまっても、それを今後の人生に生かして前進してください!