違法サイトを使ったことはありますか?
つい先日、NHKで5万冊を超えるマンガが無料で読み放題の違法サイトの特集が組まれました。(具体的なサイト名は登場しませんでしたが、明らかに『漫画村』を対象とした特集でした。)
これは若い世代には関係の深い話題かと思いましたので、当サイトでも記事にしてみました。
漫画の単行本をアップロードして無料公開している違法サイト。原理としては、GunosyやSmartNewsのようなキュレーションメディアと同じですが、有料の著作物を無料・無断で公開している点が悪質です。|URL:http://mangamura.org
該当ニュース
※YouTube動画なので、消されるかもしれません。
NHK特集の要約
- 海外サーバーを経由していると規制が難しい
- ユーザーは罪には問われない
- セキュリティの問題もある
- 漫画家の経済事情が大変
海賊版サイトを問題視しているものの、一般ユーザーにとってはほとんどリスクがない(ブラウザ閲覧のみで端末の機密情報が盗まれる可能性は低い)ため、違法サイトの利用を推奨しているようにも見えますね。
なお、仮想通貨のマイニングスクリプトが埋め込まれていたことから、マルウェアが仕込まれていると言われています。
漫画家の経済事情に関する問題提起ついては、海賊版サイトがなくなれば解決される問題ではないので、放置します。その理由は後述します。
なぜこのような海賊版サイトが横行するのか?
なぜ違法なサイトにも関わらず、人気が出るのでしょうか。それには以下の理由があります。
有料のものが無料で閲覧できるのには価値がある
400円の作品が0円で読めるということは、単純に考えるとユーザーに400円の価値を提供していることになります。中古本のように1冊100円の価値で考えても、100冊以上もの作品を読むユーザーにとっては数万円の価値に匹敵します。
本来有料である作品が無料で読み放題というのは経済にとってはマイナスですが、家計にとってはプラスに働くのでユーザーが後を断たないわけです。
違法サイトの方が利便性が高い
もし違法サイトを利用するよりも有料の作品を購入する方が利便性が高ければ、お金のある人は後者を選ぶはずです。しかし、違法サイトでは課金の手間がないため、正規のサービスよりも使い勝手が良くなります。
すると、本来お金を払って作品を購入するはずの人も違法サイトを利用することになります。
閲覧者は罪に問われない
管理人が判明したら間違いなく捕まるものの、違法サイトの利用者は罪には問われません。「悪いことしてる奴がいるなぁ」とのんびり構えていられます。
海賊版の規制は難しい
海外サーバーを経由して運営されているサイトの規制は困難です。ドメインやサーバー会社の名前が分かっても、その管理者情報を運営会社に教えてもらえない、登録者情報が分かっても偽称であることの方が多かったりします。
正しい知識を持っている人間が本気を出せば管理人を摘発するのはできるかもしれませんが、捕まえても違法サイトは生まれていき、別の違法サイトにユーザーが流れるイタチごっこなので、問題の根本的な解決にはなりません。
コンテンツ作成にお金がかからない
違法サイトのコンテンツは、ネットでスクレイピング(自動で情報を収集する技術)して集めた情報を整理して転載するだけなので、お金をかけずに大量のコンテンツを生成することができます。
最もコストのかかるコンテンツ作成費用をかけないことで、売上のほとんどが利益となります。
違法サイトは儲かる
SimilarWebというサービスで『漫画村』のアクセス情報を調べてみると、月間訪問者が1億5千万人で150億PVを記録しています。そのPV数は日本で26位・世界でも323位という成績でした。(データの信憑性はともかく、これだけの数値になるということは、物凄い数のユーザーが訪れていると考えて差し支えないでしょう。)
人が集まれば、広告を設置するだけでお金は簡単に集まります。Webサイトを閲覧してみると、大きく広告が表示されました。
広告のクリック率を0.1%・クリック単価を10円で計算してみると、【150億PV/月×0.1%/PV×10円=1.5億円/月】となるので、かなり儲かるのが分かると思います。
海賊版のサイトは何十年と存在してきていますが、このような理由で海賊版の違法サイトはWebの歴史の中からなくなっていないのです。
捕まったら元も子もないので、ハイリスク・ハイリターンなわけですが…
実は漫画家にとっては悪い話だけではない
『漫画村』のような違法サイトは漫画家にとって悪いだけではありません。その理由は主に2つです。
より多くの人に作品を読んでもらえる→認知度向上
マイナーな作品は有料では読んでもらえません。漫画雑誌に連載されているものなんて、ジャンプ・マガジン・サンデー以外を読む人はそういないと思います。
ですが、無料であれば気軽に手にとって読んでもらうことができます。
漫画家にとって読者に自らの作品・名前を知ってもらうことは必要不可欠であるものの、マイナーな漫画雑誌だけの力では名が広がりません。
週刊少年サンデーですら月間30万部しか発行していないのが現状です。どこも課金システムを兼ねた無料アプリで採算を取ろうとしているものの、下記のようにと不便だらけ。
- 無料では全然読めない
- 各社でコンテンツが違うので様々なアプリをダウンロードしなくてはいけない
- 読める作品が海賊版サイト以上に限られている
出版業界全体の問題にも関わらず、海賊版サイトに対して個々のアプローチしかしないのはいかがなものでしょうか。
出版社が全社共同して一つのプラットフォームを作り上げれば、みなそちらを使うはずですし、世界中のユーザーを集めれば広告費だけでも十分運用していけると思いますが…
権利の都合でガチガチな出版業界だけではなく、海賊版サイトで日本中・世界中の人たちに作品を届けられるのは、漫画家にとっては必ずしも悪い話ではありません。
広く知られれば、そこから新たなキャラクターグッズ販売などを仕掛けたり、クラウドファンディングやICOでの資金調達、広告やスポンサーとのタイアップ…いくらでもできることがあります。
有料で販売するより儲かるかも…
『2017年5月に閉鎖した投稿サイト「フリーブックス」や9人の逮捕者を出したリーチサイト「はるか夢の址(あと)」など、著作物の無断利用が指摘されているネットの海賊サイト問題。11月下旬にTwitterで、ある出版社が違法アップロードサイトと示談を成立させ、勝ち得た損害賠償を作者に分配したという漫画家のツイートが注目を集めた。
…
作家への分配額はそれぞれだが、本件をTwitterで明らかにした漫画家・海野螢さんは先述の通り「正規のダウンロード印税よりその分配金の方が高額だった」と報告していた(※)。※:海野螢さんの松文館作品は『少女の異常な愛情』『アリスの二つの顔』など。何点が無断利用されていたかは明かされなかった。』漫画海賊サイトを追い詰めた松文館の執念 損害賠償金は作家へ分配 「やる価値は十分にあった」|Yahooニュース
このように、違法サイトの管理人が捕まればその損害賠償を請求でき、そのお金を作者に分配することが可能です。
『漫画村』のようなサービス自体は著作権者の権利を侵害した極めて悪質なものであると言えますので、管理人が捕まった場合、資産のほぼ全てを没収されるはずです。
(『漫画村』の漫画ページの画像引用元は統一されていることから自身のサーバーを経由して画像を公開している感じがするので、管理人は危険ですし、報道されるということから逮捕の目処が立っている可能性も考えられます。)
著作権侵害が罪に問われるので、製作、中通マージン業者への賠償はなしなのではないかと考えられます。そうなれば、漫画家にとっては、賠償金の分配によって有料で販売するよりも多くのお金を得られる可能性が十分にあります。
売れない漫画家の年収は平均的なサラリーマンよりも低く、生計を立てるのでやっとであるとも言われているので、マイナーな雑誌で連載して単行本が全然売れない状態の人たちにとっては恩恵があるのかもしれません。
この点については、もう少し詳細を見ていきます。
漫画家の収入事情
漫画の印税は基本10%であり、単行本1冊400円だとすると年間1,000万円の印税を得るには25万冊の漫画を売る必要があります。漫画雑誌の原稿料はアシスタント費用などでほぼ使い込むものであり、漫画家という不安定な職業柄、年間1,000万円程度の印税は欲しいものですよね。
ですが、有名雑誌に連載されていない多くの漫画家にとっては、年間25万冊の単行本を売るのは困難です。(電子書籍等の収入はここでは掲載していない)
Twitterの20011年の投稿にこのようなものがありました。
少し前の話ですが、とある漫画研究者の方にお会いしたんですよ。
その方の調べたところによると、2009年に単行本を発行した漫画家さんの数は、約5300人だったそうです。まぁ、そのくらいだろうなぁ、という印象です。(佐藤秀峰)— マンガ on ウェブ 第10回ネーム大賞開催決定!! (@mangaonweb) 2011年5月28日
その2 では、ここで問題です。2009年に単行本を発行した漫画家5300人の内、トップ100人の印税収入の平均はいくらでしょうか?(佐藤秀峰)
— マンガ on ウェブ 第10回ネーム大賞開催決定!! (@mangaonweb) 2011年5月28日
その3 正解は約7000万円です。
さすが、売り上げトップ100ともなると、結構、いいですよね。
では、残りの5200人の印税収入の平均額はいくらでしょうか?(佐藤秀峰)— マンガ on ウェブ 第10回ネーム大賞開催決定!! (@mangaonweb) 2011年5月28日
その5 残りの5200人の漫画家の平均印税収入は、約280万円だそうです。(佐藤秀峰)
— マンガ on ウェブ 第10回ネーム大賞開催決定!! (@mangaonweb) 2011年5月28日
その6 漫画家が平均的なサラリーマンと同じ生活をするためには、毎年1冊以上、単行本を発行し、かつ、年間累計発行部数が12万部を超える必要があるそうです。(佐藤秀峰)
— マンガ on ウェブ 第10回ネーム大賞開催決定!! (@mangaonweb) 2011年5月28日
その8 ちなみに単行本1冊あたりの平均発行部数は、3万部くらいだったかな?正確な数字がすぐに出てこないけど。(佐藤秀峰)
— マンガ on ウェブ 第10回ネーム大賞開催決定!! (@mangaonweb) 2011年5月28日
その7 漫画家として、一生を全うするのは、ほぼ無理、というお話でした。(佐藤秀峰)
— マンガ on ウェブ 第10回ネーム大賞開催決定!! (@mangaonweb) 2011年5月28日
原作者になった年は99万ちょいでした。翌年も150万にギリギリ届かず。ようやく200万を超えたのは4年目だったかな。現実は厳しい。 RT @mangaonweb: その5 残りの5200人の漫画家の平均印税収入は、約280万円だそうです。(佐藤秀峰)
— 喜多野土竜 (@mogura2001) 2011年5月28日
漫画家の置かれている経済状況が改善されているという話は聞いたことがないので、さほど変化はないのではないでしょうか。
そもそも漫画市場は昔から回っていないことから、違法サイトに責任転嫁するのは違います。
違法アップされてますよってメールはたまに来てて、まぁ止めれんだろって思って諦めてたんだけど。
単行本も違法アップされててDL数25000とか見えて完全にマンガ描く気力なくした。
多分もう描かん。— 鯨川リョウ コミティアあ21-b (@gujira4) 2016年1月17日
このような主張もありますが、DL数が【DL数×単行本価格】の経済損失に当たるわけではないことを根拠に『違法アップロードに利益を吸われて不愉快だ!と思うのが不毛な理由|弓猫ブログ』が綺麗に論破してくれています。
ある漫画を5巻まで集めている人が、「無料で読めたから6巻以降は買わなくて良いや」と思うかと言われれば、そうはならないような…
無料で漫画を読むようなユーザーの多くは本来その漫画を読まないような人たちであり、アイデア次第でチャンスに変換できるはずです。
状況は音楽業界とよく似ている
周知のことですが、音楽業界も違法アップロードに悩まされています。昔は何十万・何百万枚と普通に売れていたCDが今では1万枚売れれば週間チャートでTOP10に楽々入れる時代となりました。
漫画は紙媒体でしたが、楽曲データはもともとデジタルなものだったので、CDという媒体自体が古くなったことと、違法アップロードしやすかったのが大きな要因です。
今でも違法サイトは以前として存在しているものの、アーティスト自身が楽曲を無料で配信することでファンは公式配信をフォローするようになりました。
公式の方が信頼できる上に情報が早いので、当たり前ですよね。
公式配信のフォロワーは継続的に新しい情報を獲得し、次第にファンとなり楽曲の購入、ライブに足を運ぶようになります。YouTubeなどでは広告収入を得ることができるため、ファンの獲得と最低限の収益の獲得が容易になりました。
配信~販売までも簡単にできるようになったので、たとえ後ろ盾がなくても楽曲の提供ができています。
収益化には問題を抱えていますが、産業構造が大きく変わってきているのがよく分かります。
かなり遅れてはいるものの、漫画業界は音楽業界と同じ道を辿っていくのではないかと思われます。
マンガは1冊10分で読める、では1冊400円は適正価格か?
ネットなら無料で聴ける楽曲が入った3,000円アルバムCDは、熱心はファンでない限りは買わなくて当たり前です。
漫画も同じです。
購入する人は恐らくジャケットや表紙、特典などに惹かれて購入しているはずですが、そうした部分に関心のない読者にとっては10分で読めるものが、1冊400円というのは高いと言わざるを得ません。
電子書籍ですら同価格なのはちょっと謎ですよね。
『読者「電子書籍なのになんで安くないんだ!」→出版社「いや電子の方が原価が高いし……」|コツログ』という意見もありますが、初期の市場構築ではリスクをとってでも突き進んで先行者利益を独占しにいくのが良策であり、現在の価値観で行動するといつか間違いなく崩壊します。
CyberAgent社の藤田晋さんは、賛否両論ある中で200億円の赤字を出しながらも「いつか黒字化する」と、スマホ時代のテレビ局を開拓しているAbemaTVの動向を見守っています。
日本の漫画の電子書籍なんて世界的な需要があるのは目に見えていてAbemaTV以上の可能性があるのですから、出版社の垣根を取り払って世界の市場を取りにいって欲しいものです。
違法サイトは産業改革を促す
音楽業界は違法アップロードの問題に直面し、公式で楽曲を無料配信することで問題解決の糸口にしました。収益化には苦労しているものの、ユーザーとの友好な関係が築けています。
違法サイトの存在は産業に大きな変化を促しています。
最近の例でいくと仮想通貨の90%以上は詐欺であると言われ、違法サイトや詐欺が蔓延する投機バブル環境に対して世界各国の政府・要人から注意勧告がなされています。
ですが、バブルが生まれたことでブロックチェーン技術の実用性が世界的に認知され、各国が規制とともに自国でのブロックチェーン技術の活用を検討しています。
数十年前からある技術でもその価値が認められなければ、社会は動きません。
テクノロジーの進歩は出版社にとって産業改革にはもってこいの環境となっていると思いますが、各社は違法サイトの問題を真摯に受け止めて改革に乗り出す勇気を持てるのでしょうか。
今後の進展に期待です。